novel

地球を回す仕事

真っ白の紙。こんな紙切れ一枚に、私たちの将来が書ききれるだろうか。
否。こんなに大きい紙に書くほど、私の夢は素晴らしくない。
高校3年生。あんなに楽しかった2年間に戻りたい。ああ、懐かしい。なんてセンチメンタル。
シャーペンをくるくると指先で回す。何回目かで失敗して、バンと派手な音をたてて落ちる。
そのまま頭を反らせて、椅子にもたれる。陽が、傾きだした。

「ぐあー」

「うわ、まだやってた。」

「うっさいわ。」

後ろから私に影を作る人物。汗くさ。
彼は東。褐色の肌が健康的だ。白いユニフォームと対照的。夏休みの合宿でさらに黒くなった。
ステータスはテニス部部長。頭はそこそこ良い方だろう。運動が出来て、勉強も平均。
さらりとした性格。太めの眉に、大きな口。顔は整っていると思うが、もてない。

「お前それ一昨日提出だったろ。」

「決まんねーよー」

がりがりと頭をかじる。東ははあ、とため息を吐きながら、前の椅子に座る。部活は終わったようだった。
確かに今日はこれを出さないと帰れない。
今日は見たいドラマの再放送があるのに。困った困った。
部活の音はもう聞こえない。立て付けの悪い私の机が、がた、がた、と時折音をたてた。

「じゃあさ、東はなんて書いた?」

「は、俺?緑大の医学部。」

ああ。そうか。てっきりテニスのプロになるー、とか言い出すかと思ったのに。
彼の父親は医者だったのだ。そう考えれば自然なことであった。
プロにはなれないことが分かっているのか。どんなにテニスが好きでも。
しっかり現実を見つめている彼が羨ましかった。そう、羨ましかったから、便乗してしまったのだ。

「それじゃあ、私もそれにしよう。」

「え!お前、まじかよ。」

「まじだよ。」

言っておくが、私は緑大の医学部に行けないほど頭は悪くない。東はそれ以上何も言わなかった。
正直、どこでもいい。それに、長年友達の彼と一緒の大学に行けるなら、それもいいじゃあないか。
とりあえず、私は早く帰りたかったのだ。
じゃあ、出してくるね。それだけ言って、教室を出た。

職員室へ提出して、下駄箱へ向かう。日はすっかり沈んでいた。
先生には少し驚かれた。なんだ、私が医学部なのがそんなにおかしいか。
基本的に私は向上心が低いほうだから、意外に思ったのかもしれない。医学部、か。

「あれ。」

東がいる。こちらに気が付くとおう、と片手を上げる。待っていてくれたのか。いい奴。
残っている靴は私のものだけだった。かび臭い下駄箱を足早に抜ける。
そろって校舎を出ると、西の空に金星が見えた。
好きなバンドの新曲の話をする彼を見る。今は冴えない君でも、将来は誰かを助けるなんて。
私は君のように遠くまで行けなくても、飛べる所まで飛んでみたい。
頭では考えていても、別れるまで会話の中に大学の話が出ることはなかった。
家に帰って、10分遅れてドラマの再放送を見た。
夕食のときに、両親に大学のことを話すと、まあいいんじゃない、と返ってきた。
あまりにも普通すぎた。


続く

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