novel

荒木と俺

今日も荒木が泣いているのを見た。
今日も、というからには最近よく見るということだ。
本当に毎日毎日。荒木はよく泣いていた。
朝に顔を合わせれば、目の周りが赤くなっている。痛々しく腫れ上がった瞼は、荒木を少し不細工にした。
はたから見れば可哀想と思われる姿かもしれないが、俺はそんな風に思えなかった。

その日の放課後、荒木と教室で2人きりになった。
幸か不幸か、日直だった俺。さっさと帰ってしまった女子に文句も言えず、日誌を書き上げ、
職員室へ提出。窓を閉め忘れたことを思い出して教室へ戻ったとき、荒木がいたのだ。
窓際の後ろから2番目の席、それの机に腰掛けて、グラウンドを走る野球部の姿を眺めていた。
俺が教室に入っても、荒木は気づいていないようだった。いや、気づかないフリをしていたのか。
そこで俺は何を思ったか、荒木にあの疑問ををぶつけていた。

「あのさ、荒木さ、」

「何?」

「泣けばいいと思ってるでしょ」

・・・。
言ってしまった。これでは突き放すような言い方ではないか。せめて最後に?をつけるべきだった。
まごうことなき肯定文。後悔の2文字が俺の胸を埋め尽くす。荒木は振り返らない。
やめておけばよかった。でも俺はそういう風にしか思えなかったのだ。また荒木は泣くのだろうか。
泣くとなると、少し面倒くさいなあ。なんて俺の頭は冷静に先を見ていた。
荒木がゆっくりと振り返る。

「んーーー、少しね」

え。拍子抜け。俺は何も言わなかった。荒木は笑っている。少し見下すような笑みだった。
答えるのにたっぷり時間をかけたが、実際大して考えていないようだった。
なんだかからかわれたような気分になって、顔の中心に熱が集まったのが分かった。
変な汗をかいてきた。なんだか大きな何かが喉に詰まる感覚。苦しい。息がしにくい。
思わず口を大きく開けて、小さく息をしてしまった。
荒木はいまだににやにやと笑っている。その笑顔が俺を追い詰める。逃げ出したい。

「んん、そっ、か。」

やっと、それだけ言った。最初の言葉は喉が詰まって、うまく音にならなかった。

「そう、じゃあね。」

荒木はくすりと声に出して笑って、机を降りた。少し目を伏せた荒木のまつげはとても長かった。
そのまま俺とは目を合わさず、後ろのドアまで歩き、教室を出て行った。歩くたびにゆさりと揺れた彼女のポニーテール。
俺はその様子をスローモーションのように感じながら見ていた。
それから家に帰っても、俺の顔の熱は当分消えることはなかった。
教室の窓を閉めるのを忘れたことを、布団に入ってから思い出した俺は、明日の説教を覚悟して眠りについた。

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