Chapter 7 「はい」 「ありがとう」 ルピの前に真っ白なマグカップを置く。もわりと湯気をまくそれを両手で大事そうに持ち、口をつける。 「ココアでよかった?」 「うん。おいしい。」 2人の間に和やかな空気が流れる。 そこへ邪魔者が一人。 「はいストーップ!」 「!」 「なんだよMT」 「いちゃいちゃすんな!」 少し顔を火照らせたMTが割り込んでくる。MTはちょっとウブだから。 やりとりを眺めて、笑いながら僕もマグカップに口をつける。 甘めのココアが舌を滑り降りていく。先ほどまで冷え切っていた体に染み渡る。 ほう、と息を吐く。うん、おいしい。 「で?さっき言ってた話したいことってなんだよ?」 MTがコーヒーをすすりながら聞く。(MTは甘いものが嫌いなんだ) すると彼女は半分ほど飲んだカップを置いて、少し話しにくそうに口ごもる。 モサモサをルピルピが、どこから見つけたのか、ビスケットを2枚持って楽しそうにどこかへはねていった。 彼女はそれを見届けた後、口を開く。 「あなたの、おじいさんのことなんだけど、」 「え、おじいちゃん?」 「うん・・・」 まさかのおじいちゃんの話題でびっくりした。 なぜ、僕のおじいちゃんのことを知ってるの、とかいう疑問は、彼女の表情からして察することにした。 胸騒ぎ。本当にならなければいい。 「・・・何かあったの?」 勇気を出して聞く。少し声が震えた。MTは黙って僕らの会話を聞いている。 彼女が口を開く。 「・・・・亡くなったの」 声も出なかった。出そうとしたが掠れた空気になって壁に吸い込まれてしまった。 一瞬止まった頭で考える。急に記憶が巡る。 6年前、魚が完成した日の、次の日。おじいちゃんは失踪した。 理由は考えても分からなかった。しばらくしたらひょっこり帰ってくる。そう思っていた。 でも今に至るまで、一切の消息も掴めることはなかった。 そこで、記憶が止まる。あれ、なんだか。おかしいぞ。笑えてきた。 まったく、あのくそじじいめ。 「そっか。」 「、悲しくないの?」 ルピは少し泣きそうになって、聞いた。鼻声だった。 「悲しいけど、あのおじいちゃんのことだからね。」 「ほんとだよ、くそじじい。」 ハハ、MTと笑い合う。そうだ、こういうことだろ、おじいちゃん。 笑いが止まらない。 ルピは不思議そうな顔をしていたが、二人を見てくすりと笑う。 「それより、もっと話を聞かせてよ。」 「うん。」 にこりと笑って、とても嬉しそうに話し始めた。MTも楽しそうだった。 こんなにあったかいのは久しぶりだ。 それと、さよなら。 ――――――――――――――――――――――――――― 「あ、飲み物冷めちゃったね。」 「話しすぎちゃったね。」 「いいんだよ、おもしろかったし。入れ直すね。」 そう言って立ち上がる。長い時間話してしまったようだ。疲れたMTは大口開けて眠っている。 カチリ、ガスのひねりを回す。 彼女の話によれば、僕のおじいちゃんとルピのおばあさんは知り合いで。 ルピのおばあさんは王宮の人らしい。もう亡くなってしまったようだけど。 その人からも話を聞きたかったなあ。 けたたましい音をたてて、ポットが鳴く。それをコンロから下ろす。 カップに注ぐと、また温かい湯気が上る。彼女に渡せば、ありがとう、といって受け取る。 「そういえば、ルピは魚について何か知ってるの?」 「え?」 「ほら、おじいちゃんと親しかったみたいだし。」 「あ・・・」 あのね、と彼女の口が動くが、それからまた口を閉ざしてしまう。 僕は静かに次の言葉を待つ。何かを知っていることは解った。 「私、おばあさんに言われたの。」 「?」 「モサに会いに行くように、って。」 「僕に?」 「・・・ペリポリパを助けて、って言い残したの。」 魚を、助ける? 意味が解らなかった。 助けるも何も、あれはおじいちゃんが作った、ただのカラクリ。人工物だ。 キカイに心を持たせることが出来るほど、今の技術は進んでいない。そんな思考もない。 キカイはキカイのまま進歩している。人間に近づけようなんて誰も思わない。 心、なんて。 ふと彼女と目が合うと、その考えを否定されているような気持ちになった。 そんな、まさか、 「あれには、心があるの。」 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] w友達に教えるw [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |