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Chapter4


Chapter4

キュ、上体が慣性の法則で少し前のめる。胸元でモサモサがかすかに、苦しそうな声を出した。ごめんね。
MTがエンジンを切ってバイクから降りる。

「あ、もう乗り終わってるな。行くぞ、モサ」

「うん。あ、待って!」

MTがマントを翻して走り出す。あんにゃろう全速力だ。体力のない僕にとってはつらい事この上ない。
学校に行っていた頃の長距離走を思い出す。風に当たる目が乾く。涙が出そうになった。


目の前には「魚」。近くで見るとさらにその大きさが分かる。「魚」の出す声に負けないくらい、街は騒いでいる。
潮に漬かりすぎた体は、赤茶色く錆び、あれから6年も経ってしまったとどこか人事のように思ってしまう。
世界はあまりにも変わりすぎた。僕を残して。この気持ちはあれからというもの一つも消化されない。

ふと彼の方を見ると、口を大きく開き、目を輝かせている。・・・そんなに見るものじゃないと思うけど。
彼の反応に少し呆れて、半目でもう一度「魚」を見る。何一つ変わることなく、ゆらゆらと上下運動を繰り返している。
「魚」の上ではなにやら慌しく、乗組員が出港準備に走り回っている。

「やっぱモサのじーちゃんはすげーなあ!」

「え、どうしたの」

「だってさ、お前のじーちゃんがこれ作ったんだぜ?」

「まあ、そうだけど、」

すげー、すげーと繰り返しながら少し「魚」へ近寄る。確かに、この「魚」、ペリポリパを作ったのは僕のおじいちゃんだ。
そのことを知っているのは、王宮の人物と僕と親しい人くらいだろう。
おじいちゃんが作ったからものだから、汚れてしまいそうだから、乗りたくないのだろうか。

「魚」へ近付いていったMTに声を掛けようと、視線を上げた。その時、「魚」の上に鮮やかな虹色が目に入った。潮風に揺らされるお下げが目を引いた。
その虹色とは対照的に水色より薄い、白藍の瞳。全体的に色素の薄い、風に吹かれれば霧のように霞んでいってしまいそうだった。
その表情は驚きと、少しの喜び。僕は彼女を知らない。

「あ・・・」

途端、一層強く風が吹く。もう一度目を開けたときには、そこに彼女の姿はなかった。
本当に幻だったのではないか、と馬鹿らしい考えが頭をよぎる。自嘲するように笑って、MTの元へ駆け出した。


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